ひまつぶしライフ

人生は死ぬまでのひまつぶし。セミリタイアして、そんな日々を送りたい。

佐々木朗希投手の登板回避は本当に「英断」だったのか

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高校野球の岩手大会決勝で、大船渡高校の国保監督が佐々木朗希投手の登板を回避させた起用法について、いまでも賛否が飛び交っています。

きのう話題になったのは、これ。

 

79歳の野球評論家、張本勲氏がテレビのサンデーモーニングで「絶対に投げさせるべき」「けがを怖がったんじゃ、スポーツやめたほうがいいよ」と発言。

この発言に対して、批判が集まっています。

いかにも「老害」っぽい意見ですからね。

大リーグのダルビッシュ投手もツイッターで批判しております。

 

すでに場外乱闘の様相ですね。

 

32歳の国保監督の判断に対しては、「英断だ」と称賛する声が多いようですが、ぼくは必ずしもそうは考えていません。

監督は決勝で佐々木投手を投げさせなかっただけでなく、2番手、3番手のピッチャーさえ使いませんでした。

結局、今大会初めて登板する投手を出したものの、序盤に打ち込まれて試合は決まりました。

問題は、とことんまで勝利を追求したように見えない国保監督の采配が、チームメートの納得を得ていたかどうかにあると思っています。

 

監督はインタビューに対して、こう答えています。

――今大会で登板していた和田、大和田の両投手もいたが

 彼らも登板は少ないイニングだったが、精神的なものもあり、疲労がたまっていたので、今大会初登板の投手2人を投げさせた。

――選手は納得しているのか

 心のなかまではわかりません。

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高校生にして163キロを記録した佐々木投手は、野球界の「宝」になる可能性があります。

だから、監督は将来の「宝」を守ることを最優先させました。

ここで「宝」を壊してしまったら、どんな批判を浴びるか分かりません。

野球が個人スポーツだったら、登板回避の判断は全面的に正しいでしょう。

佐々木投手には甲子園よりも先の未来があります。

プロ野球、あるいは大リーグ。

甲子園の活躍よりも、もっと大きな成功が待ち受けている可能性があります。

でも、野球はチームスポーツなんですよね。

 

夏の甲子園に出場できるのは49校で、ベンチ入りを果たすのは各チーム18人です。

全部で882人が甲子園の土を踏むことができます。

春の選抜高校野球は32校なので、576人。

春夏連続出場もありますが、単純に合計すると1458人。

彼らは、高校野球界のエリートと言えるでしょう。

 

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そのエリートのうち、昨年のドラフトで指名された高校生はたった37人です。

ドラフトから漏れ、大学や社会人を経てプロ入りする選手もいるでしょうが、そう多くはないでしょう。

残りの千数百人は、人生において甲子園よりも大きな舞台に立つことはありません。

「甲子園なんて通過点だ」なんて言えるのは、全体のごくごく一部。

甲子園でプレーするほぼすべての選手は、ここが野球人生をかけた、最大の目標なんです。

「俺は甲子園に出たんだ」という事実は、その後の長い人生に、どれだけの自信と誇りを与えるでしょう。

佐々木投手と同じように、それぞれの選手にも将来があり、甲子園に行くかどうかは彼らの進路や就職に影響するかもしれません。 

 

ぼくは想像します。

大船渡高校のほかの選手たちは、一生に一度めぐってきた甲子園行きをかけた試合に、本当はすごく勝ちたかったんだろうなって。

国保監督は、佐々木投手の「不確実な将来」の方を、彼以外の多数の選手たちの「今しかない夢」よりも優先させました。

将来、佐々木投手がプロ野球や大リーグで活躍したら、「あのときに英断を下した監督」を世間は称賛するでしょう。

だけど、「あのときに夢を断たれたほかの選手たち」のことを思い浮かべる人は、きっと誰一人いないでしょう。

 

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この一件をひとことで言えば「一将功成りて万骨枯る」ですね。

ひとりの将軍が名を上げたその影には、無名のまま散った1万人の兵士たちが骨と化して戦場にさらされているという意味です。

まあ、社会に出たらよくあることです。

部下たちが苦労して挙げた成果を、上司が自分ひとりの手柄としてかっさらうなんてことは。

それが、我々が生きている世界の現実です。

 

そう考えると、国保監督は実は名将なのかもしれません。

これから社会に出ていく高校生たちに、身をもって世の中の厳しさを教えてあげたという点で。