人格面でも優秀な後輩に、仕事はまかせようと思った
中間管理職のぼくが率いているチームはなかなか優秀です。
メンバーはそれぞれ得手不得手があるものの、みんな経験も人脈もあって、安定した仕事ぶりを発揮しています。
だから、ぼくもたいていのことは「それでいこう。任せた!」と言っていれば何とかなる。
雑用は多いし、責任も思いから決して楽ではないけれど、部下には割合めぐまれていると言えます。
とはいえ、人数が多ければ問題児も必ずいます。
この20代女性の部下、何かをアドバイスしてもすぐに反論してくるんですね。
それが納得のいく意見だったらいいのだけど、なんの根拠もない思い込みなので、対処のしようがありません。
自分をドクターXの大門未知子か誰かと勘違いしてないか。
いや、あなたは米倉涼子じゃないから。
どこからどう見たって。
そんなこと口に出せるわけもなく、あまり深入りしないように、地雷を踏まないように努めている日々です。
周りの社員たちも同じ考えで、「あいつは『ゆとり』だから仕方ないよ」と言いながら遠巻きに眺めているだけ。
すると、だれからも助言をもらえずに仕事も独善的になってしまうんですね。
素直でいることって、大事なんですよ。
特に若いうちは。
その部下が、やらかしました。
仕事で大きなミスをしてしまったのです。
ぼくは立場上、ただちに上司に報告し、尻拭いに動き回ります。
これも仕事のひとつで給料に含まれているのだから、仕方ありません。
トラブルをなんとかうまく収めることができて、さてどうするか。
本来であれば、このミスをきっかけに彼女にはいろいろ考えてもらいたい。
その方が本人のためにもなるし、長い目でみれば会社のためでもあります。
でも、あと1年でリタイアしようと思っているぼくにとっては、もうどうでもいいや。
そう思ってしまうんです。
本屋さんに行くと「優れたリーダーシップを発揮するには」だとか「部下を使いこなす方法」だとか、いかにも管理職に向けた本がたくさんありますよね。
「いかにして部下を成長させるか」なんてことが書いてある。
これ、将来出世しようとか経営者になろうとかいう人たちには「刺さる」のかもしれませんが、ぼくには関係ない。
部下が成長しようが、会社の売り上げが伸びようが、もういいんです。
もちろん、仕事はちゃんとやりますよ。
でも、数年後を見すえた部下の成長までは面倒見きれないというのが本音です。
というわけで、やらかした部下には「基本をしっかり見直して、同じことを繰り返さないように」とだけ伝えて、この件は終わりにしました。
さすがにこの時ばかりは「はい、わかりました」と彼女もしおらしく返事しましたね。
ところが、その後、チームをまとめるリーダーから報告があって、うならされたのです。
そのリーダーは切れ者タイプではないけれど、愚直に仕事に取り組み真面目にこなしてくれる人物です。
ぼくの右腕となって、まとめ役を引き受けてくれてとても助かっています。
今回はトラブルの後始末にも走り回ってくれたのですが、彼はやらかした部下についてぼくにこう報告したんです。
「ミスをしたからって萎縮する必要はないから積極的に仕事をしていこう、とあいつには言っておきました」
おまえ、エライな!
教科書に出てくるような、完璧なフォローです。
もしかして、リーダーシップの本、読んでる?
ぼくにはそこまでの器の大きさはなかったよ。
いい後進を得た。
もう、おまえにすべてを任せる。
これで心置きなく会社を辞められます。
今回のトラブルは、セミリタイアへの決意を新たに固める一件になりましたとさ。
めでたし、めでたし。